トロン(TRON、TRX)は、2017年にジャスティン・サン(孫宇晨)によって設立された分散型ブロックチェーンプラットフォームです。
シンガポールに拠点を置く非営利団体「TRON財団」がその運営を担い、同年8月にICO(Initial Coin Offering)を実施して約70億円(当時の約7000万ドル)を調達しました。
当初、トロンコイン(TRX)はイーサリアムベースのERC-20トークンとして発行されましたが、2018年6月に独自のブロックチェーンに移行し、独立したネットワークを構築しました。
トロンのコンセプトは、デジタルコンテンツの共有とエンターテインメント産業を分散化し、中央管理機関を排除することでした。
YouTubeやiTunesのようなプラットフォームがクリエイターに課す高い手数料や制限をなくし、コンテンツ制作者が直接ユーザーから報酬を得られる仕組みを目指しました。
このビジョンは、特にアジア市場で注目を集め、初期の支持者からは熱狂的な反応を得ました。
成長と注目度の高まり(2018年〜2020年)
2018年はトロンにとって重要な年でした。独自ブロックチェーンへの移行後、同年7月にはP2Pファイル共有サービス「BitTorrent」を買収し、その技術をトロンエコシステムに統合しました。
これにより、大容量ファイルの分散型共有が可能になり、プラットフォームのユースケースが拡大しました。
また、TRXの価格は2018年1月に史上最高値の約0.30ドル(約30円)を記録しましたが、暗号資産市場全体のバブル崩壊に伴い、その後は下落傾向となりました。
2019年から2020年にかけて、トロンは技術開発を進めつつ、コミュニティの拡大に注力しました。
注目すべきは、サムスンとの提携です。
サムスンのブロックチェーン対応スマートフォンにトロンウォレットが統合され、一般ユーザーの認知度向上に寄与しました。
しかし、この時期は価格面での大きな変動は少なく、TRXは0.01〜0.04ドル程度で安定していました。
DeFiとステーブルコインの台頭(2021年〜2023年)
2021年、暗号資産市場のブルマーケットが到来し、TRXも再び注目を集めました。
4月には約0.18ドルまで上昇し、DeFi(分散型金融)の波に乗る形でエコシステムが成長しました。
トロン上でのdApp(分散型アプリケーション)の開発が活発化し、特に低手数料と高速処理(約2000TPS:毎秒トランザクション数)が強みとなりました。
さらに、2022年にはトロンDAO(分散型自治組織)が設立され、ガバナンスがコミュニティに移譲されました。
この年、ジャスティン・サンが提案したアルゴリズム型ステーブルコイン「USDD」がリリースされ、TRXの燃焼(バーン)を通じて1USDDを鋳造する仕組みが導入されました。
USDDは、テラ(Terra)のUST崩壊を教訓に、過剰担保を採用して安定性を保つ設計が特徴です。
しかし、2023年には米国証券取引委員会(SEC)がジャスティン・サンとトロン財団を提訴し、TRXとBitTorrentトークン(BTT)が未登録証券であると主張しました。
この訴訟はトロンに一定の影を落としましたが、コミュニティの支持と技術開発は止まらず、市場での地位を維持しました。
近年の躍進と市場地位(2024年〜2025年)
2024年、トロンはいくつかの大きな進展を見せました。
特に、ステーブルコイン「USDT(テザー)」の主要ハブとしての役割が拡大し、トロン上でのUSDT取引が全体の90%以上を占めるまでになりました。
この需要増により、ネットワークの収益が急増し、TRX価格は12月に約0.44ドル(約66円)の新高値を記録しました。
また、ドナルド・トランプ元大統領の再選と彼のDeFiプロジェクト「World Liberty Financial(WLFI)」へのジャスティン・サンの投資(3000万ドル)も話題となり、規制緩和期待から価格がさらに押し上げられました。
2025年3月現在、TRXは約0.22ドル(約33円)で取引されており、時価総額は約2兆円規模で暗号資産ランキング10位前後を維持しています。
トランザクション手数料の無料化(ガス代のトークン非依存化)が2024年末に予定されており、これが実現すればユーザー体験がさらに向上し、採用拡大が期待されています。
トロンの未来:2025年以降の展望
トロン(TRX)の将来には、いくつかの可能性が考えられます。
ステーブルコインの基盤としての地位強化: USDTのトランザクションの大半を担うトロンですが、2024年にCircleがUSDCのサポートを終了したように、規制や競争がリスク要因です。
しかし、低コストと高速性を武器に、新興国の金融インフラとしての役割が拡大する可能性があります。
DeFiとdAppの成長: トロン上のDeFiプロジェクトは、2025年に総ロック価値(TVL)がさらに増加する予測です。
ゲームやNFTなど、エンターテインメント分野でのdApp開発が進むと、TRXの需要も高まるでしょう。
規制と競争の影響: SEC訴訟の行方は不透明ですが、トランプ政権下での暗号資産政策が緩和されれば、トロンにとって追い風となります。
一方で、イーサリアムやソラナといった競合との差別化が課題です。
価格予測: 一部のアナリストは、2025年末にTRXが0.30〜0.45ドル(約45〜67円)に達すると予測しています。
長期では、採用拡大と供給量の減少(バーン)により、1ドル(約150円)を超える可能性も議論されています。
ただし、市場のボラティリティを考慮すると、短期的な調整も予想されます。
最後に
トロン(TRX)は、2017年の誕生以来、エンターテインメントから金融インフラへとその役割を進化させてきました。
BitTorrentの買収やUSDTの基盤としての地位確立など、戦略的な展開で市場での存在感を示しつつも、規制や競争という試練に直面しています。
2025年以降、トロンが必要不可欠なブロックチェーンとして定着するかどうかは、技術革新とコミュニティの支持にかかっています。
その歴史と未来は、暗号資産業界全体の動向を映す鏡とも言えるでしょう。